【電力系統】有効電力と無効電力(3)【無効電力だって役に立つ】
こんにちは。電気でぶ猫のラルフ0です。
前々回は主に有効電力について,前回は主に無効電力について語らせていただきました。
今回は,はじめに電力系統において,無効電力がどのように役立つのかを説明させていただきます。
無効電力と電圧降下
図1を見てください。電源と負荷があって,送電線を思い切ってリアクトル分だけで近似した系統を示しています(ある程度電圧が高い送電線で距離が短ければ,そんなに的外れな近似ではありません)。
図1 電圧降下の説明図
電源における電圧の「大きさ」をEs,負荷における電圧の「大きさ」をErとします。そして,電源と負荷における電圧の大きさの差:Ed=Es-Erが,送電線(リアクトル)における電圧降下になります。
ここで,リアクトルのリアクタンスの大きさをXとすると,導入を省略して天下りに与えますが,次のような近似式が成り立ちます。
Vd≒Qr・X ……(1)
ただし,単位法(p.u.法)という単位で各量を表します。このp.u.法だけでひとつの記事になってしまうので,今は,例を示すにとどめます。例えば容量1000MVA(※1),定格電圧154kVをベースとしたp.u.法における値(p.u.値)を考えます。電圧が150kVであれば,
150/154=0.974p.u.
となります。なお,(1)式はEs,Erが1p.u.に近い値のときだけ成り立つ近似です。
※1:有効電力をP,無効電力をQとしたとき,√(P^2+Q^2)を皮相電力といい,その単位がVAです。M(メガ)は10^6を意味する補助単位です。
無効電力が50Mvarであれば,
50/1000=0.0500p.u.
となります。
Xについては,まずベースのインピーダンス値(単位:Ω)を計算します。
154^2/1000=23.716Ω
ですから,例えば20Ωであれば,
20/23.716=0.84331≒0.843p.u.
となります。
ついでに,Qr=0.0500p.u.,X=0.843p.u.のときのVdを計算してみると,
Vd=0.0500×0.843=0.04215≒0.0422 p.u.
となります。
さて,もう一度(1)式を見てください。
無効電力は電圧とたいへん密接な関係にあることがわかります。例えば上の数値例では,50Mvarの遅相無効電力が負荷に流れこんでいれば,約4%の電圧降下を生じさせることができます。
一般に,遅相無効電力が負荷に流れ込んでいる(遅相無効電力が負荷で消費されている)場合,負荷側の電圧を下げることができます。反対に進相無効電力が負荷に流れ込んでいる(進相無効電力が負荷で消費されている)場合,負荷側の電圧を上げることができます。
このようにして,無効電力を上手に制御してあげることで,系統の電圧を適切な値に保つことが,系統を安定に運転する上で不可欠なのです。「無効」電力というなかなかひどい名前がついていますが,実際は電力系統にとってとても大切な役割を果たす物理量なのです。
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電圧と電流の位相差が90°ではない場合
Ea=Ecosωt
Ia=Icos(ωt-Θ)
の場合,
有効電力:Pa=EIcosΘ
無効電力:Qa=EIsinΘ
となります。
また,上記の※1で少し説明したのですが,
Sa=√(Pa^2+Qa^2)
=√{EI^2・(cosΘ)^2+EI^2・(sinΘ)^2}
=EI
を皮相電力といい,単位はVAを用います。もちろん次元 (物理量を構成する基本単位の組み合わせ)は,有効電力,無効電力と同じです。
さらに,
cosΘ=Pa/Sa
を力率といい,Θを力率角といいます。