電気でぶ猫のつぶやき

電力系統を中心に,電気関係の記事や,電験などの電気関係の資格の話などをやさしくつぶやきます。

【電力系統】発電所(5)【水力発電所その3】

 こんにちは。電気でぶ猫のラルフ0です。

 前々回,前回に続いて,今回も水力発電所の話題です。

揚水発電

 ダムを持つ発電所の中で,高いところにある上池と低いところにある下池の二つの貯水池を持って,下池から上池にポンプで水を汲み上げることができるようにしたものがあります。それが揚水発電所です。

 水を汲み上げるためのポンプと,ポンプを回す電動機(モータ)を,発電機,水車とはまったく別に置く場合もありますが,多くはポンプの役割を果たすこともできるポンプ水車と,電動機の役目を兼ねる発電機――発電電動機が使用されています。

 発電機と電動機は原理としてはほとんど同じものです。この話はまた別記事で致します。

 さて,揚水発電所は電力系統において,重要な役割を担っています。電力は非常に貯蔵しにくい性質を持っています。そのため,基本的に負荷で使用される電力量と同じ量の電力量を発電するように,全発電所で調整するようにしなければなりません。後日詳しく説明したいと思っていますが,いわゆる同時同量を保たなければならないのです。これはけっこうたいへんなことです。

 こうした中で,電力をためる蓄電要素があるとたいへん助かりますが,化学的な電池は,まだまだ電力系統における貯蔵要素として使うには容量が小さいです(開発が進んで,少しずつ系統でも使われだしていますが)。

 その点,揚水発電所は非常に大容量の蓄電要素といえます。負荷が少なくて電力が余るときには,その電力を使ってポンプで水を汲み上げ,位置エネルギーとして蓄えます。そして,負荷が多くなって電力が不足するときには溜めた水を落として発電することができます。これをある程度大きな容量でやれるので,揚水発電所は電力系統としては非常に助かる存在なのです。

 少し前までは,負荷が少なく電力が余りがちで電力料金も安い夜間に水の汲み上げ(揚水)を行い,負荷が多い昼に発電するというのが基本パターンでした。しかし,最近では太陽光発電の急速な導入に伴って,昼間でも電力が余ってしまう時間帯が出てきたため,昼でも揚水を行うパターンが出てきているようです。

 また,震災以降は,平常時はとにかく水を上池に溜めたままにしておいて,いざというときの非常用電源として使うことを想定して備えるという使い方もされています。

 

 

可変速揚水発電

 揚水発電所のアドバンストバージョンとして,可変速揚水発電所があります。

 可変速揚水発電所では,可変速発電電動機という特別な発電機を用います。以前,多くの発電所で用いられている同期発電機のお話をしました。同期発電機は系統の周波数と同期して回転する必要があるので,回転速度が一定である必要があるのでした。

 また,同期機では,回転子を電磁石にするための電流(界磁電流)が直流です。したがって,回転子の回転速度ωkと磁石の極対数をPとしたときの磁束が電機子の巻線を鎖交していく角速度ωeはωe=P・ωkの関係で結ばれなければなりません。

 可変速発電機では,このくびきを外すための工夫がなされています。可変速発電機の回転子には,固定子の場合と同様に三相分の巻き線が,機械的な位相として120°ずつの間隔で配置されています。そしてこの巻線にパワーエレクトロニクスを用いた周波数変換装置によって,低周波三相交流電流を励磁電流として流すのです。すると,回転子上で低周波で回転する磁束ができます。こうすると例えば回転子の回転方向と同じ方向に5Hzで回転する磁束を作ったとすると,回転子の回転周波数が45Hzであっても,電機子からみた回転子の磁束の回転周波数は50Hzになって,50Hzの系統と同期できます。

 また,回転子における磁束の回転の向きを逆にすれば,回転子の回転速度を速くすることもできます(励磁電流の三相交流の相順(各相が120°ずつ位相が遅れる順番)を変えれば可能)。

 つまり,同期機と異なり発電機の回転速度を変えることができる,すなわち,”可変速”なのです。まぁ,ぶっちゃけ誘導機(誘導発電電動機)です。誘導機の話はまた別のところでしようと思います。

 可変速発電機の利点はいろいろあります。

 まず,発電にしろ揚水にしろ,効率が最高になる回転速度というものがあります。これが,同期回転速度とはずれています。そこで,可変速発電機を用いれば,効率が最高になる回転速度に合わせて,速度を変えて運転することができます。

 また,同期機による揚水の場合,出力(入力というべきかもしれませんが,こういう場合も「出力」というのが慣習です)が一定になってしまいます。これに対して可変速発電機は回転速度を変えられることから,出力を変えることができます。しかも高速に変えられます。このため,周波数変動の抑制に対して極めて有利です。なお,発電時についても当然,周波数変動抑制を得意とします。

 さらに,励磁装置であるパワーエレクトロニクスを用いた周波数変換器が,同期機のそれより,いろいろな点で優秀なことから,無効電力を高速に制御することができます。そのため,系統安定性に大きく貢献することが可能です。なお,系統安定性についてはまた,別項でお話いたします。

 

 すいません。水力発電所の話,もう少しだけつづきます。