【電力系統】変電所(5)【保護リレー(その2)】
こんにちは。電気でぶ猫のラルフ0です。
前の記事からだいぶ間をあけてしまいました。申し訳ありません。体調を崩したり,本業の方が忙しかったりしたもので。
さて,今回は前回の続きで,保護リレーの話です。
変圧器保護
変圧の故障としてまず生じる可能性が大きいのは巻線に関するものです。巻線間短絡,巻線と鉄心間の絶縁破壊による地絡,高圧巻線と低圧巻線の混触,巻線の断線があります。この中でも頻度が高いのが巻線間短絡です。
巻線に関する故障が生じると,故障電流によるアークによるガスの発生,タンク内圧上昇によるタンクの破損,破損したタンクから漏れた油への引火といったように波及故障が連鎖していきますので,巻線故障の段階で故障を検出し,保護する必要があります。
差動リレーによる保護
変圧器の保護でも,まず使われるのが電流差動を利用した方式です。変圧器の場合には次のような原理によります。
I1:変圧器1次側電流 I2:変圧器2次側電流
n1:変圧器1次側巻線数 n2:変圧器2次側巻線数
とすると,
I1・n1=I2・n2 ……(1)
という関係が成り立ちます。これをアンペアターンの法則といいます。電圧と巻線数の関係は,V1/V2=n1/n2でした。理想的な変圧器の1次側と2次側では電力が等しくなる必要がありますから,V1/V2=I2/I1となります。よって(1)式が導かれます。
また,(1)式は,
I1/n2=I2/n1 ……(2)
と変形できます。変圧器に故障がなければ,(1)式または(2)式が成り立ちます。ところが巻線に故障が生じると,実質的にn1もしくはn2に変化が生じることになりますから,(1)式,(2)式が成立しなくなります。この原理を利用して,変圧器の故障を検出します。
変圧器保護の後備保護
前項で述べたように,変圧器保護の主保護としては,差動方式のリレーが使われます。そして後備保護としては,変圧器の過負荷保護を兼ねて短絡過電流リレーおよび中性点抵抗の保護を兼ねて地絡過電流リレーが使われます。この他に距離リレーが適用される場合もあります。
母線保護
電力系統を構成する各機器(発電機,変圧器,送電線,趙相設備等)は母線を介して接続されています。その意味で母線は,電力系統の要であるともいえ,母線の故障は広範囲に故障を拡大させるポテンシャルを持っています。
母線保護の特徴としては,
・故障拡大のポテンシャルが大きいことから,確実性がより求められる。
・端子数が多い。
・各ライン開閉器の開閉に伴って,動作させる遮断器が異なる。
・外部故障時の故障電流が大きく,変流器が偏磁しやすい。
・母線構成によっては,内部故障でも電流流出がありうる。
などがあります。
母線保護では,上記のような特徴に対応するため,複数形式の保護リレーを組み合わせて使用します。使われるリレーとしては,
・比率差動リレー
・過電流リレー
・地絡過電流リレー
・地絡過電圧リレー
・不足電圧リレー
などがあり,これらの保護リレーによって論理和,論理積によるシーケンスを組んで保護システムを構築します。
保護リレーも踏み込んでいくと,とてつもなく奥深い世界なのですが,今回はごく表面的なところを紹介しました。
それでは,今回はこのあたりで。次回は調相設備などを紹介したいと思います。
【電力系統】変電所(4)【保護リレー(その1)】
こんにちは。電気でぶ猫のラルフ0です。
今回は,保護装置に関してつぶやこうと思います。保護装置というと,もしかして遮断器まで含まれてしまうのかもしれませんが,今回の記事で語りたいのは,各種故障を検出して,遮断器に動作信号を送出するシステム,いわゆる保護継電器とは保護リレーと呼ばれる装置についてです。なので,タイトル副題も「保護リレー」にしておきました。
変電所の保護
変電所の話を始める前に,発電所について語っていたのですが,発電所にも保護リレーはあります。まぁ,うっかり説明するのを忘れたんですけど(^^;)。こちらはまた別に記事を立てたいと思います。
さて,変電所の保護ですが,主たるところでは,送電線保護,母線保護,変圧器保護があります。以下,これらを少々詳しく――ただし,簡単な範囲で解説します。
送電線保護
まず,送電線について詳しく説明しないといけないところなのでしょうが,それは別の記事に譲ります。ここでは,ごく簡単に。送電線のうち架空送電線は,ざくっというと鉄塔,がいし,電線から成り,絶縁はがいしのみによっているます。このような単純な構成のため,設備自身による故障が少ないという特徴があります。さらに故障が生じても,適切に除去されれば送電線そのものは壊れにくいという特性があります。
一方で,送電線は電力系統を構成する設備の中でも空間的な広がりが大きいことから,故障の発生比率はもっとも高いといえます(落雷はもちろん,クレーンや樹木との接触,比較的電圧階級が低いところでは蛇による故障もよくあります)。
そこで,まず故障確率が大きいことから,高速に確実に故障を検出することが求められます。これは,さらに送電線自身は故障によって壊れにくいという特性を活かして,遮断器によって故障を除去したら,短絡アークや地絡アークが消滅するのをまって,再度遮断器を投入する「再閉路」という制御が可能になってきます。再閉路を行うことができれば,系統の安定運転に寄与できるのです(このあたりも別の記事で詳述予定)。
さらに,送電線は空間的な広がりが大きいことから,変電所から距離がある故障点の場合,いかにして正確に故障を検出するかということがひとつの課題になります。
といったところを背景に,送電線保護でよく使われる保護リレー方式を以下に紹介します。
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電流差動リレー方式
図1を見てください。
図1 電流作動リレーの説明図(保護区間に故障がないとき)
変電所Aと変電所Bの間の送電線(簡単のため,単線で表しています)のそれぞれの端に,変流器を設けます。そして,お互いの正の向きを逆向きに定義します。このようにすると,この区間で故障がなければ,IA+IB=0となります。一方で,図2に示すように,区間内で故障が発生すると,IA+IBが0でなくなります。このようにして,故障を検出する方法を電流差動方式といいます。
図2 電流作動リレーの説明図(保護区間に故障が発生しているとき)
この方式は,確実に故障が検出できる優れた方法なのですが,変電所Aと変電所Bの間で通信が必要になり,コストが高い方法でもあります。それで以前は重要な275kV以上の超高圧系統で用いられていましたが,昨今では154kV級の送電線でも使われるようになっているようです。
回線選択リレー方式
回線選択リレー方式の原理を図3と図4で示します。
図3 回線選択リレーの原理(保護区間に故障がないとき)
図4 回線選択リレーの原理(保護区間に故障が発生しているとき)
2回戦の送電線をそれぞれ簡単のために単線で示しています。図3に示すように,保護区間内に故障がなければ,各回線のそれぞれの電流は同じ大きさです(すなわち,I1=I2)。
しかし,区間内に故障があると,図4に示すように,例えばA単側が電源側とすると,I2>I1となります。さらにB端側(負荷側)では,どちらの回線でも同じ大きさの電流が流れますが,向きが逆になります。このような現象を利用して故障回線を検出する方式を回線選択方式といいます。
回線選択リレーは,66kVもしくは77kVといった,電力系統としては比較的電圧が低い階級で用いられています。
送電線保護の後備保護
上で述べたような電流差動方式や回線選択方式は主保護,いわゆるメインとなる保護方式として用いられますが,この主保護が万が一失敗することも考慮に入れなければなりません。このようなときに動作するのがバックアップリレー,後備保護リレーです。
送電線保護では,上記の方式が主保護の場合,後備保護としては,距離リレー方式が使われることが多いようです。距離リレーというのは,電圧と電流を測定してオームの法則からインピーダンスを計算し,そこから故障点までの距離を測定するものです。送電線の単位距離あたりのインピーダンス,送電線の距離は既知ですから,故障点までの距離を測定することで,保護区間かそうでないかを区別することができるわけです。
さて,だいぶ長くなりました。今回はこのあたりで失礼します。次回は母線保護,変圧器保護について語りたいと思います。
【電力系統】変電所(3)【開閉装置】
こんにちは。電気でぶ猫のラルフ0です。
今回は,変電所における開閉装置に関してつぶやこうと思います。
開閉装置の概要
開閉装置,いわゆるスイッチです。変電所においては,送電線の入り切りおよび運転停止を行ったり,各種故障から機器を守ったりする役割を持ちます。
図1に変電所における各開閉装置の結線の例を示します(なお,記号は適当です。規格に従っていません)。
図1 変電所における開閉装置に関する結線例
開閉装置には,その目的によって,いくつかの種類があります。遮断器,断路器,接地開閉器があります。また,開閉装置でひとくくりにしてしまうと違和感もあるのですが,避雷器があります。また,図1には書きませんでしたが,負荷開閉器というものもあります。
以下,これらの各開閉装置に関して説明していきます。
断路器
線路に電流が流れていると切ることができません。電流が流れておらず電圧のみがかかっている電路に関してだけ,開操作を行うことができます。ただし,開閉回数に関する寿命については遮断器より多く,回数を重ねることができます。
遮断器
故障電流のような大電流を切ることが可能です。当然,定格負荷電流の開閉,母線の開閉も可能です。だったら,上に書いたような制限の多い断路器なんか使わないで,遮断器を使えばいいじゃんと思うかもしれませんが,そうもいきません。開閉回数に関する寿命が短く,頻度の多い開閉には向いていないのです。そこで,断路器との組み合わせが必要になってきます。
遮断器には,電流を遮断する仕組みから,いくつか種類があるのですが,よく用いられるのはSF6ガス遮断器と真空遮断器です。どちらの遮断器も交流電流が,その値が0になる点(電流零点)で初めて遮断可能になる点は同じです。
SF6ガス遮断器も真空遮断器もけっこうややこしい機構があるのですが,SF6ガス遮断器は,接点が開離したあと生じている電流アークを,電流零点においてSF6ガスを吹き付けて吹き消します。真空遮断器では,電流が流れている期間は金属蒸気が充満しているのですが,接点が開離して電流零点を迎えると金属蒸気が減少し,真空状態に戻り絶縁状態が回復します。
負荷開閉器
負荷開閉器は,負荷電流が流れている電路を切ることができる開閉装置です。故障電流を遮断することはできません。そういう意味では,断路器と遮断器の中間的な枠割をもった開閉器といえそうです。ただし,あまり高い電圧の変電所では用いられていないようです。
接地開閉器
ものとしては,ほぼ断路器と同じです。図1に示すように,電路と対地の間に設置されます。
断路器を切っても,電路には残留電荷が残る場合があります。これが感電の原因になるので,安全のために接地開閉器を閉じることで,残留電荷を対地に逃がすとともに,電路の電位を対地電位と等しくします。
もちろん,点検などの作業が終了し,断路器を閉じて電路に電圧をかける場合は,その前に接地開閉器を開く必要があります。もし閉じたまま電路の断路器を入れてしまえば,地絡故障ということになってしまいます。
避雷器
避雷器は,雷サージや開閉サージといった過電圧に対し,放電電流を流すことによって,交流電圧を維持する装置です。
昨今では,酸化亜鉛(ZnO)の素子を,適用電圧に合わせて直列接続したものをタンクに入れ,SF6ガスを加圧封入したものが主に用いられます。
電圧-電流に関して極めて非線形な特性を持ち,動作電圧よりも低い電圧では殆ど電流が流れないのに,動作電圧に達すると急速に電流が流れます。このため,サージ性の過電圧がくると,避雷器側に流れ込むことにより,変圧器などの機器を過電圧から守ることになります。
ガス絶縁開閉装置
今回の記事の最後にガス絶縁開閉装置(GIS:Gas Insulated Swichgear)を紹介します。
GISは,遮断機,断路器,接地開閉器などの開閉装置,避雷器,母線,電圧や電流を測定する計器用変成器などを接地タンクに格納し,SF6ガスで絶縁したものです。
タンクが接地されており,高電圧部が外気にさらされないため,信頼性・安全性が高くなります。また,絶縁性に優れたSF6ガスのおかげで高電圧部とタンクの絶縁距離を短くできることから,極めてコンパクトな装置とすることができ,変電所における設置スペースを小さくできることから,日本では特に多く使用されています。
それでは,今回はこのあたりで。次回は保護装置に関して語ろうかと思います。
【電力系統】変電所(2)【変圧器(その2)】
こんにちは。電気でぶ猫のラルフ0です。
今回は,変電所の主要構成要素である変圧器の結線について語りたいと思います。
変圧器の結線方式
三相交流用の変圧器を構成するときには、変圧器の各巻線を結線する必要がありますが、それには代表的な二つの方式があります。図1に単相変圧器三台からなる三相変圧器の結線に関する簡単な図を示しています。一次側巻線の方の結線方式がY結線(スター結線、またはワイ結線と呼びます),二次側巻線の方の結線方式がΔ結線(デルタ結線と呼びます)です。
図1 三相変圧器の結線
図1の場合は,一次二次合わせて、一次用,二次用の巻線からなる二巻線変圧器の例ということになりまして,結線方式は、Y-Δ結線と呼ばれます。結線方式には,Δ-Δ結線,Y-Δ結線,Δ-Y結線,Y-Y-Δ結線(※1,※2)などがあります。それぞれの特徴は以下のようになります。
※1:三巻変圧器の例になります。
※2:今回は深入りしませんが,Y-Y結線というのはまず用いられません。変圧器の鉄心に由来する飽和特性のため,第3次調波電流が生じるのですが,この三次調波電流を還流させることができるΔ巻線が必ず必要になります。
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(1)Δ-Δ結線
一相分の巻線が故障してもV結線として送電が継続できるという長所があります(V結線については回をあらためて説明します)。短所が割と多く,中性点が得られないことからアーク地絡などにより異常電圧が生じやすい,同じ線間電圧のY結線と比較すると巻線導体が細くなり巻き回数が多くなり大きくなる,三相が不平衡のとき循環電流が流れる,などがあります。
これらの特徴から,比較的低電圧大電流に適し,33kV以下の比較的小容量変圧器に用いられます。
(2)Y-Δ結線
長所はY結線側において中性点接地を取ることができ,異常電圧を軽減できる,三相の変圧比またはインピーダンスに差があってもΔ巻線に循環電流が流れない,Y巻線側は巻線電圧が線間電圧の1/√3で,巻線の占積率がよく高圧に適するなどがあります。
短所は一次二次間に30度の位相角変位を生じること,一相故障時V結線が使用できないこと,一相の短絡は多相を過励磁することなどがあります。
対象としては,275kV/66kV(77kV),154kV/66kV(77kV)の電圧降下用として多く用いられています。
(3)Δ-Y結線
長所,短所はY-Δ結線と同じです。
発電所の主変圧器としてよく用いられます。
(4)Y-Y-Δ巻線
※2でも述べたように,Y-Y結線は基本的に用いられません。で,三次巻線として,Δがついて,Y-Y-Δ巻線として用いられます。Δ巻線は,第3次調波電流の還流のほかに,趙相設備の接続や所内電力の供給に利用される場合があります。一方でこうした目的にまったく使用せず端子を持たない三次巻線が設けられる場合もあります。これを安定化巻線といいます。
Y-Y-Δ巻線の長所としては,一次二次とも中性点接地ができることから,保守および保護が容易であること,各相の変圧比,インピーダンスに多少の相違があっても循環電流が流れないこと,一次二次巻線は巻線電圧が線間電圧の1/√3で,巻線の占積率がよく高圧に適するなどがあります。
Y-Y巻線だと,三次調波電流が還流できないことが大きすぎる欠点となりますが,Y-Y-Δ巻線の場合,その問題もないので,これといった大きな短所はありません。
対象としては,500kV/275kVの電圧降下用など,超高圧や特別高圧における大容量器によく用いられます。
さて,変圧器に関して述べるべきことはまだまだあるのですが,まずは一通り変電所を眺めてしまいたいこと,変圧器に関してこれ以上のことを説明するには,ある程度の電気数学を説明する必要があることなどから,変圧器については,いったんここで話を締めくくりたいと思います。
次回は開閉装置について語りたいと思います。それでは,また。
【電力系統】変電所(1)【変電の概念,変圧器(その1)】
こんにちは。電気でぶ猫のラルフ0です。
今回から何回かにわたって,電力系統における重要な構成要素である変電所について語りたいと思います。
変電って?
変電所は文字通り,変電を行う所です。では,「変電」とはなんでしょう?
変電とは電力に関わる電気量――電圧や電流の性質を変換・調整することです。三相交流におけるある相の電圧は,例えば次のように表せます。
V=√2Vm・cos(2πft+φ)
ここで,√2Vmは電圧の振幅,Vmは実効値,fは周波数,tは時間,φは位相
振幅と実効値はここではまとめて「大きさ」といってしまいましょう。時間はさすがにいじれませんから除くとして,電圧の大きさ,周波数,位相を変換したり調整したりするのが変電です。このとき電流も(従属的に?)変換されたり調整されたりします。
上では電圧・電流を交流として扱いましたが,交流を直流に変換したり,その逆の変換も変電です。
しかし,狭い意味では,変圧器による電圧の大きさの変換(変成)を変電と呼ぶ場合もあります。この観点では,周波数の変換や交流・直流の変換を行うところは「変換所」と呼ばれます(これもいずれ解説します)。
電圧の変換(変成)には変圧器が使われますが,以前説明したように,無効電力を使うことで,電圧の大きさを調整することができます。並列コンデンサ(スタコン,シャントキャパシタ)や並列リアクトル(シャントリアクトル),静止型無効電力補償装置(SVC)などを使うことで,無効電力を制御し,結果として電圧を調整することができます。これも当然変電です。
変圧器(その1)
変電所における役割で大事なもののひとつは,電圧を変換(変圧,変成)することです。電力系統では,送電における損失を少なくするために,発電所で一度電圧を500kVや275kV等に思い切り高くして,その後,各変電所で徐々に電圧を下げながら,需要家に電力を届けます。この発電所で電圧を高くしたり,変電所で電圧を低くしたり,というのが変圧器の役割です。
変圧器の原理は,電磁気学におけるアンペールの法則とファラデーの法則です。以下に単相変圧器の簡単な模式図を示します。
単相変圧器は,磁気媒体である鉄心に独立したふたつの巻線を巻いたものです。基本的には電源に連系する方の巻線を一次巻線,負荷に連系される方の巻線を二次巻線といいます。ただし,二次巻線に負荷が連系される場合は,ちょっと説明が難しくなるので,今回は解放状態とします(負荷がつながる場合の説明もいずれしようと思います)。それぞれの巻線の巻き数をn1,n2とします。
一次巻線に電圧v1の電源を連系し,電流i0が流れたとします。するとアンペールの法則により,コイルの中を貫く磁界が生じ,鉄心の中を磁束φが通ることになります。なお,巻線が鉄心に巻かれたことにより,鉄の磁気的作用により磁束は,空気中に巻線が置かれた場合より著しく強くなることを申し添えておきます。
さて,この磁束φが時間的に変化すると,ファラデーの電磁誘導の法則により,一次巻線には起電力
e1=n1・dφ/dt ……(1)
が生じます(※1)
※1:レンツの法則を知っている方は,(1)式の右辺になぜ負符号がつかないのかと思うかもしれません。これは,起電力の正方向を,電源電圧・電流と逆方向に取っているためです。
また,二次巻線にも同様に磁束φが鎖交しますから,
e2=n2・dφ/dt ……(2)
(1)(2)式から
e1/e2=n1/n2 ……(3)
となります。ところで,変圧器の一次端子電圧v1とe1,二次端子電圧v2とe2はほぼ等しいので(正確には巻線のインピーダンスによる電圧降下の分だけ異なります),(3)式から,
v1/v2≒e1/e2=n1/n2
という関係が導かれます。
すなわち,一次電圧と二次電圧が変圧器の巻数比によって変換(変圧,変成)されることがわかります。これが変圧器の原理です。
次回は,変圧器の結線方法について語りたいと思います。ではまた。
【資格試験】電験三種の勉強(6)【補足(数学とか……】
こんにちは。電気でぶ猫のラルフ0です。
電験三種に関し,前回までで,「理論」「電力」「機械」「法規」の各科目の勉強について,一応語り終わりました。
今回は,前回までに語りきらなかった補足事項について,少しばかりつぶやきたいと思います。
数学について
これまで何度か、計算問題が増えたことで電験三種の難易度が上がってきたという話をしました。これは、合格するためには、ある程度計算問題にも対応しなければならないということです。そして、そのためにはどうしても一定程度の数学の力をつける必要があるということになります。
幸い、電験三種に対応するために必要となる数学は、高校で習う程度の数学です。特に重要な項目を挙げると、二次方程式および二次関数,三角関数,指数関数,複素数,平面幾何,ベクトルといったところです。
こうした数学を勉強するのに高校数学のいわゆる認定教科書を準備するのはたいへんでしょうし(アマゾンで買えるのかな?),認定教科書って正直つまんないですよね。そこで,次の本はいかがでしょうか?
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高校数学をまとめなおして,各項目を有機的に結び付けて書いてある興味深い本です。電験三種では必要のない,微分・積分なども含まれていますが,その辺は飛ばして読んでもよいでしょうし,二種受験などの先を見越して勉強しておくのもよいかもしれません。
バックグラウンドの少ない人は――
電験三種の勉強に関する記事を書き始めて以来,くどいほど繰り返したのが「過去問を解け」なのですが,さすがに電気や電磁気のバックグラウンドが少なすぎると,過去問を勉強しようと思っても,効率が上がらないことが考えられます。
そんなときは,少しお金がかかるかもしれませんが,通信教育などを利用するのもひとつの方法です。過去問集よりは解説なども詳しいですので,バックグラウンドの不利を払拭するのによいと思われます。
下記はよくラルフ0が張っている広告ですが,上記のような目的にはなかなかよいのではないでしょうか。
理論の出題傾向
理論の記事を読み返してみたら,出題傾向について語るのをすっかりわすれていました。ここに簡単に列挙します。
電磁気学では,平行板コンデンサ,複数接続されたコンデンサに関する問題,平行導体に働く電磁力,磁気回路・インダクタンス関係などがよく出ます。
電気回路ではキルヒホッフの法則を使う問題,過渡現象,ベクトル図や複素数を使う交流回路計算,三相交流回路の電力・力率・インピーダンス等の問題がよく出ます。
電気計測では,これが特に多く出るというのはないですが,あえていえば,いろいろな形の波形の実効値や平均値の計算などが出ています。
その他,トランジスタを含む半導体に関するもの,電子の運動に関する問題等が出ます。
なお,上記は計算問題です。この他理論でも少しですが論説問題が出ます。各種計器に関する問題や半導体関係が多いですね。
以上で,電験三種について,一通り語ったと思います。次回からは変電所に関する記事になる予定です。ではまた。
【資格試験】電験三種の勉強(5)【法規】
こんにちは。電気でぶ猫のラルフ0です。 ここ数回は,電験三種の勉強について語っています。 今回は「法規」ですね。意外とやっかいなんです,これが。
法規の勉強
もう,わかったよ! と言われるかもしれませんが,やはり勉強の中心は「過去問を解くこと」です。大事なことなので何度も言ってますが,これは各科目共通です。
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前にも述べたように,電験三種の4科目の中で,法規をいちばん難しい科目に挙げる人もいます。ラルフ0は,その人のバックグラウンドにもよりますが,一般には理論の次に難しいかなと思っています。しかし,ラルフ0の周りの実力のある技術者が電験三種を受けて不合格になる場合,法規で落としていることが多かったです。
一方で,法規の勉強にはコツがあるというか,やっちゃいけいないことがあります。それは,時間をかけすぎてはいけないということ,より正確には日数をかけすぎてはいけないということです。法規は大きく法律に関する問題と施設管理に関する問題が出ます。施設管理の問題については,まだ時間をかけてもよいと思うのですが,法律の問題については,あまり日数をかけると前の方で勉強した項目を忘れてしまうんですよね。こと電験三種に合格するという観点からは,法律に関する部分は2週間からせいぜい1か月くらいで詰め込むのがいいですね(※1)。その間他の科目を放っておくわけにもいかないでしょうから,試験当日まで1か月前くらいになったら,法規にかける時間をぐっと増やして(他の科目は相対的にへりますが),法律関係の勉強を始めるイメージですね。
※1:「試験勉強」という観点からはこの通りなんですが,実務においては,法律,特に「電技とその解釈」は重要です。電験三種合格後こそ,法規関係の勉強に力をいれましょう。
出題の傾向ですが,何はなくても電気設備技術基準および電気設備技術基準の解釈(略して,「電技およびその解釈」)です。計算問題にも論説問題にも出ます。計算問題では,絶縁抵抗・絶縁耐力,B種接地抵抗,電線に関する問題(風圧荷重,支線の強度,電線のたるみ)などが多いです。論説の方は非常に幅が広く,過去問の研究が欠かせませんが,電技からよりその解釈から多くの問題が出されています。
法律としては次に電気事業法です。計算問題は見たことないです。したがって論説問題ということになりますが,これまた幅が広い。あえてよく見る分野を挙げると,電気工作物の定義と種類に関する問題,保安規定,主任技術者について,電技への適合について(これ,電気事業法なんです)あたりがよく出ているように思えます。
法律は上記,電技およびその解釈と電気事業法を抑えればおよそ大丈夫と思えますが,電気工事士法の概要くらいは押さえておくとなおよいと思われます。そこそこの頻度で出ています。
次に施設管理です。計算問題としては,まずは需要率・負荷率・不等率に関する問題。定義をきちんと押さえて計算できるように,また,この三者間の計算式も重要です。電力でもないのに,水力発電所の出力に関する問題がでるときがあります。あとはコンデンサによる力率改善,配電線の地絡,短絡故障に関する問題もでますね。論説問題はあまり出ないのですが,最近の傾向として,風力発電設備に関する問題が出る傾向がありますね。
さて,サブテキストですが,「法規」に関しては,これっというのがなかなかありません。何度も言っているように,どの科目も過去問にあたることは重要なのですが,「法規」については,とりわけ重要です。一般にサブノートを作ることも有効なのですが,こと「法規」に至っては,何かメモを残す必要があるなら,メインテキストに書き込むのが主でよいと思われます。
こういう状況ではありますが,敢えてサブテキストを推薦するなら,次のものになると思われます。
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これ以外に,上でひたすら重要性を説いた電技およびその解釈に関する本が山と出ていますが,それらはそれこそ合格してから実務でこそ必要になるものなので,今回はあげません。
以上で,「理論」「電力」「機械」「法規」と,電験三種の各科目に関する勉強について,一応語り終わりました。
次回は,電験三種の勉強についての補足について語りたいと思います。「補足」といってもけっこう重要なことなので,お楽しみに! ではまた。