電気でぶ猫のつぶやき

電力系統を中心に,電気関係の記事や,電験などの電気関係の資格の話などをやさしくつぶやきます。

【電力系統】発電所(8)【原子力発電所その2】

 こんにちは。電気でぶ猫のラルフ0です。

 原子力発電所の2回目の記事です。

軽水炉以外の原子力発電所

 軽水炉であるBWRやPWR以外にも,原子炉にはいくつかの種類があるのですが,日本では数も少ないし,今後運転される見込みもまずないと思えますので,極簡単に紹介するにとどめたいと思います。

 まずは,「軽水炉」ってのがあるわけですから,対になるというものへんな言い方かもしれませんが,「重水炉(重水型発電炉)」というのがあります。減速材として重水(D2O)が使われます。Dは重水素ですね。水素の同位体で,陽子ひとつと中性子ひとつから成る原子核を持ちます。重水は軽水(普通の水!)より中性子の吸収が少なく,そのため燃料に天然ウランを使えるというのが長所です。冷却材には軽水が使われ,減速材と冷却材が完全に分離されているのも,軽水炉との大きな違いです。

 次に,黒煙減速ガス冷却炉。その名の通り,減速材として黒煙が,冷却材としてガスが用いられます。冷却材用のガスとしては,炭酸ガス,ヘリウムガスなどがもちられます。

 最後に,高速増殖炉軽水炉も含めて,蒸気の原子炉は速度が遅い「熱中性子」による核分裂が反応の主体となります。これに対して,高速増殖炉では,減速材を用いずに高エネルギーの高速中性子による核分裂を利用します。そのため,反応が継続するための燃料の量(臨界量といいます)が大きくなります。そこで,燃料であるウラン238プルトニウム239をたくさん炉内に組み込むことが必要になります(反応起動にはウラン235を使用)。一方で,高速中性子による核分裂反応は,核分裂によって失われる核分裂物質より,親物質に中性子を吸収させて,より多い核分裂物質を作り出すことができます。この過程が「増殖」です。高速増殖炉は出力密度が高いことから,冷却材としては軽水等より効率のより液体ナトリウムが用いられます。これを蒸気発生器(熱交換器)に通して,2次側で水蒸気を発生させます。

 

 

 原子力発電機の回転速度

 前回の記事で原子力発電所は火力発電所(特に汽力発電所)と似ていることをお話しました。どちらも水蒸気を作ってタービンを回す構造だからです。

 しかし,実をいうと,火力発電所原子力発電所では,その水蒸気の特性がけっこう異なっているのです。具体的には,原子炉で発生する(PWMでは蒸気発生器)蒸気は火力発電所の蒸気タービンの水蒸気と比べると,飽和蒸気であること,熱落差(※1)が小さいこと,蒸気量が多いこと(同容量で1.6倍から1.8倍くらい)といった特徴があります。

※1:ざっくりとはタービン入り口と出口における熱エネルギーの差と思ってください。正確には入り口と出口におけるエンタルピーの差のことです。

 こうした特徴から,原子力発電所における蒸気タービンの翼は火力用のそれと比較して,径が大きいものが使用されます。すると,翼の半径をr,回転角速度をωとすると,翼の先端の円運動加速度はrω^2となり,遠心力はこれに比例します。したがって,火力なみの回転速度は機械的につらくなってきます。

 そこで,原子力発電の場合,発電機回転子における極対数(電磁石のNS極のペアの数)を2としています(火力発電では1でした)。したがって,1分間における発電機の回転数は50Hz系統では1500回転,60Hz系統では1800回転となっています。

 

 

 

 

【電力系統】発電所(7)【原子力発電所その1】

 こんにちは。電気でぶ猫のラルフ0です。

 今回は,いよいよ,電力系統界の大悪役,原子力発電所の登場です(^^;)。

 まぁ,原子力発電所となると,いろいろな思いを抱く方もおられると思いますが,この記事では(あまり難しくない)技術的な事項をたんたんと語ろうと思います。

 原子力発電所

原子力発電の概要

 とても乱暴にいうと,原子力発電は火力発電とよく似ています。火力発電はボイラーでお湯を沸かして水蒸気を作り,その高温高圧の水蒸気が膨張してタービンを回転させるのでした。

 原子力発電では,ボイラーの代わりに原子炉でお湯が沸かされます。ざっくりといえば,これだけの違いです。

 で,熱を生むのが火力の酸素による燃焼に対して,核分裂という核反応です。これは,ご存知の方も多いと思いますが,不安定な原子がふたつ以上の別の種類の原子に分裂する現象です。原子炉で使用されているのは,ウラン235中性子を吸収させて分裂を促す反応です。このとき,ふたつの原子(いろいろな原子になる可能性があります)に分裂するとともに中性子があらたに飛び出してきて,次の核分裂のきっかけになります。で,分裂する際にわずかに質量が失われ,この質量がエネルギーに変換されるのです。これを説明する式がアインシュタインによる相対性理論において導かれる有名な

  E=mc^2  ここで,E:エネルギー,m:質量,c:光速

です。

 

 

BWRとPWR

 さて,原子炉にもいろいろな種類があるのですが,その中でもメジャーなのが,沸騰水型原子炉(BWR)と加圧水型原子炉(PWR)です。どちらも軽水(いわゆる普通の水)を使う軽水型原子炉です(※1)。

※1:核分裂を促す中性子は速度が遅い方がよいので,中性子の速度を減速させる働きをする物質を減速材といいます。また,核分裂によるエネルギーで高熱になる燃料棒等を冷却するとともに,熱エネルギーを運び出す役割をする物質を冷却材といいます。軽水型原子炉では,減速材と冷却材が共通で水(軽水)を使うというわけです。

    BWRは、炉の中で水を沸騰させて、炉から直接タービンに水蒸気を送ります。この方式を直接サイクルといいます。PWRと比べると構造が簡単ですみますが、放射能化された水蒸気をタービンに送ってしまうので、タービンも放射能化していまいます。

 BWRのアッパーバージョンとして,ABWRがあります。これは,通常のBWRに対して,制御棒の駆動方式に電動方式を追加したり,ポンプを炉内に収めたりしたものです。

    PWRは、炉の圧力を高くして、水の温度が高くなっても沸騰しないようにします。そして、高温高圧の水を蒸気発生器といういわゆる熱交換器に送り、そこで間接的に水蒸気を作り、タービンに送ります。この方式を間接サイクルといいます。したがって、タービンが放射能化されることはありません。一方で、高圧に耐えるように炉を頑丈に作る必要があることと、BWRと比べると構造が複雑になります。

 PWRのアッパーバージョンとして,APWRがあります。これは熱交換器の保有水量増加などの性能改善や機器の配置改善が行われたものです。

 

次回に続きます。

 

 

 

 

【電力系統】発電所(6)【水力発電所その4】

 こんにちは。電気でぶ猫のラルフ0です。

 水力発電所の話が長くなりましたが,今回でいったん終わりです。中途半端な部分が残っているので,今回の記事は短めです。

水力発電機の回転速度

 前にも述べたように,回転子の機械的な回転角速度ωr,電機子の電流が作る磁束の回転角速度(電気角速度ともいいます)ω,回転子の電磁石の極対数(NS極のペアの数)Pの間には,ωr=ω/Pの関係があります。

  火力発電機の場合には,高速回転が可能なので,P=1としているのでした。

 しかし,水力発電機の場合は,水車で生じるキャビテーション等の関係から,あまり高速で回転させることができないのでした。そこで,水力発電機の場合は,Pを大きくして対処しています。P=5とか大きいものではP=20くらいのもあるみたいです。

  50Hzの系統で,1分間における回転数で見てみると,P=5では,3000/5=600回転/分,P=20では,3000/20=150回転となります。なお,この3000という数字は,50回/秒×60秒から計算されたものです。50回/秒というのはもちろん50Hzのことです。なお、60Hzでは3600になります。

 また,火力発電機は高速回転することから,回転子が細長い円筒型という形状をしているわけですが,水力発電機の場合は,磁極の数を多くしやすいように,巻線が巻かれるコアの部分が半径方向に飛び出している突極型というタイプが用いられています。

 

 

電力と電力量

 突然ですが,これまでの記事で,電力量という言葉をちゃんと説明しないで使ってきてしまったので,少しここで補足しておきます。

 ある有効電力をある時間使ったとき,もしくはある有効電力をある時間発電したときのエネルギーを電力量といいます。有効電力の単位はW(ワット)で,これはJ/s(ジュール/秒)ですから,時間の単位として秒を使えば,電力量の単位はJ/s×s=Jとなって,確かにエネルギーもしくは仕事であることがわかります。

 しかし,電力量の時間の単位としては,h(時間,1時間の時間ですね。hourのhです)が用いられます。有効電力の方もkW(キロワット)やMW(メガワット)が用いられます。すると電力量の単位としては,kWh(キロワットアワーもしくはキロワット時),MWh(メガワットアワーもしくはメガワット時)となります。

 例えば,500kWの有効電力を12時間使った時の電力量は,500kW×12h=6000kWhとなるわけです。

 

 

【電力系統】発電所(5)【水力発電所その3】

 こんにちは。電気でぶ猫のラルフ0です。

 前々回,前回に続いて,今回も水力発電所の話題です。

揚水発電

 ダムを持つ発電所の中で,高いところにある上池と低いところにある下池の二つの貯水池を持って,下池から上池にポンプで水を汲み上げることができるようにしたものがあります。それが揚水発電所です。

 水を汲み上げるためのポンプと,ポンプを回す電動機(モータ)を,発電機,水車とはまったく別に置く場合もありますが,多くはポンプの役割を果たすこともできるポンプ水車と,電動機の役目を兼ねる発電機――発電電動機が使用されています。

 発電機と電動機は原理としてはほとんど同じものです。この話はまた別記事で致します。

 さて,揚水発電所は電力系統において,重要な役割を担っています。電力は非常に貯蔵しにくい性質を持っています。そのため,基本的に負荷で使用される電力量と同じ量の電力量を発電するように,全発電所で調整するようにしなければなりません。後日詳しく説明したいと思っていますが,いわゆる同時同量を保たなければならないのです。これはけっこうたいへんなことです。

 こうした中で,電力をためる蓄電要素があるとたいへん助かりますが,化学的な電池は,まだまだ電力系統における貯蔵要素として使うには容量が小さいです(開発が進んで,少しずつ系統でも使われだしていますが)。

 その点,揚水発電所は非常に大容量の蓄電要素といえます。負荷が少なくて電力が余るときには,その電力を使ってポンプで水を汲み上げ,位置エネルギーとして蓄えます。そして,負荷が多くなって電力が不足するときには溜めた水を落として発電することができます。これをある程度大きな容量でやれるので,揚水発電所は電力系統としては非常に助かる存在なのです。

 少し前までは,負荷が少なく電力が余りがちで電力料金も安い夜間に水の汲み上げ(揚水)を行い,負荷が多い昼に発電するというのが基本パターンでした。しかし,最近では太陽光発電の急速な導入に伴って,昼間でも電力が余ってしまう時間帯が出てきたため,昼でも揚水を行うパターンが出てきているようです。

 また,震災以降は,平常時はとにかく水を上池に溜めたままにしておいて,いざというときの非常用電源として使うことを想定して備えるという使い方もされています。

 

 

可変速揚水発電

 揚水発電所のアドバンストバージョンとして,可変速揚水発電所があります。

 可変速揚水発電所では,可変速発電電動機という特別な発電機を用います。以前,多くの発電所で用いられている同期発電機のお話をしました。同期発電機は系統の周波数と同期して回転する必要があるので,回転速度が一定である必要があるのでした。

 また,同期機では,回転子を電磁石にするための電流(界磁電流)が直流です。したがって,回転子の回転速度ωkと磁石の極対数をPとしたときの磁束が電機子の巻線を鎖交していく角速度ωeはωe=P・ωkの関係で結ばれなければなりません。

 可変速発電機では,このくびきを外すための工夫がなされています。可変速発電機の回転子には,固定子の場合と同様に三相分の巻き線が,機械的な位相として120°ずつの間隔で配置されています。そしてこの巻線にパワーエレクトロニクスを用いた周波数変換装置によって,低周波三相交流電流を励磁電流として流すのです。すると,回転子上で低周波で回転する磁束ができます。こうすると例えば回転子の回転方向と同じ方向に5Hzで回転する磁束を作ったとすると,回転子の回転周波数が45Hzであっても,電機子からみた回転子の磁束の回転周波数は50Hzになって,50Hzの系統と同期できます。

 また,回転子における磁束の回転の向きを逆にすれば,回転子の回転速度を速くすることもできます(励磁電流の三相交流の相順(各相が120°ずつ位相が遅れる順番)を変えれば可能)。

 つまり,同期機と異なり発電機の回転速度を変えることができる,すなわち,”可変速”なのです。まぁ,ぶっちゃけ誘導機(誘導発電電動機)です。誘導機の話はまた別のところでしようと思います。

 可変速発電機の利点はいろいろあります。

 まず,発電にしろ揚水にしろ,効率が最高になる回転速度というものがあります。これが,同期回転速度とはずれています。そこで,可変速発電機を用いれば,効率が最高になる回転速度に合わせて,速度を変えて運転することができます。

 また,同期機による揚水の場合,出力(入力というべきかもしれませんが,こういう場合も「出力」というのが慣習です)が一定になってしまいます。これに対して可変速発電機は回転速度を変えられることから,出力を変えることができます。しかも高速に変えられます。このため,周波数変動の抑制に対して極めて有利です。なお,発電時についても当然,周波数変動抑制を得意とします。

 さらに,励磁装置であるパワーエレクトロニクスを用いた周波数変換器が,同期機のそれより,いろいろな点で優秀なことから,無効電力を高速に制御することができます。そのため,系統安定性に大きく貢献することが可能です。なお,系統安定性についてはまた,別項でお話いたします。

 

 すいません。水力発電所の話,もう少しだけつづきます。

 

 

【電力系統】発電所(4)【水力発電所その2】

 こんにちは。電気でぶ猫のラルフ0です。

 前回に引き続き,水力発電所について語らせていただきます。

水車の種類

 まず水車は衝動水車反動水車に分類されます。この衝動水車反動水車とは何かを説明するのがなかなかやっかいなのです(ラルフ0も完全には理解できていません)。

 それでもなんとか説明を試みてみます。非圧縮性で定常な流体に対してエネルギー保存則を考えると,ベルヌイの定理というものが成り立ちます。これは,流体の流線に沿って,それぞれ単位体積あたりの運動エネルギー,位置エネルギー,圧力エネルギーの和が一定になるというものです。そして,式をちょっと書き換えて長さの単位で上記のエネルギーをとらえなおして,速度水頭,位置水頭,圧力水頭の和が一定,というふうにいうこともできます。

 ここでわかりにくいのが,圧力エネルギーですね(運動エネルギーはわかると思います)。圧力について,その次元(基本物理量の組み合わせ)を調べてみると,やはり単位体積当たりのエネルギーの次元になるのです。まぁ,確かに圧力があれば仕事はできるでしょう。とはいってもいったいどういうエネルギーなのか? 熱力学でいうところの内部エネルギーみたいなものでしょうか? 正直よくわかりません。

 で,衝動水車は運動エネルギー(速度水頭)の形でエネルギーを受けて水車を回転させるものです。反動水車は圧力エネルギー(圧力水頭)の形でエネルギーを受けて水車を回転させるものです。以上が精いっぱいの説明です。

 

 

 衝動水車としては,ペルトン水車などがあります。反動水車としては,フランシス水車,斜流水車(デリア水車),プロペラ水車などがあります。

 これらは水車発電所における水の有効落差(損失などを差っ引いた落差)と比速度という,これまたわかりにくい概念との関係でいろいろ使い分けられます。比速度に関する数式を示すことは控えますが,その意味するところは「ある水車の相似な模型が有効落差1m,出力1kWで動作するときの回転速度」です。

 水車および発電機は,その回転速度が大きいほど寸法を小さくでき,安価になります。しかし,回転速度が大きくなると,機械的な強度が問題になることと,キャビテーションとよばれる現象が問題になります。キャビテーションとは,水車の表面で泡が発生することで,回転の効率が落ちたり,泡が破裂するときの衝撃波で,水車の羽(ランナ,バケット)が侵食されたりします。

 有効落差が大きい(高落差)ときは,速度がオーバしがちになるので,比速度の小さな水車が選択されます。それはペルトン水車です。

 低落差のときは,回転速度が不足することによる水車や発電機の大型化をさけるため,比速度の高い水車が選択されます。それはプロペラ水車です。プロペラ水車の中でもカプラン水車がよく用いられています。

 中落差のときは,比速度も中くらいなフランシス水車や斜流水車が採用されます。なお,フランシス水車と斜流水車では,フランシス水車の方が適正有効落差が高く,比速度が低いです。

 

 今回は,ここまでとします。次回は揚水発電所についてお話しようと思います。

 

 

 

【電力系統】発電所(3)【水力発電所その1】

 こんにちは。電気でぶ猫のラルフ0です。

 今回は水力発電所についてお話しようと思います。

水力発電

水力発電再生可能エネルギー

 水力発電は高きから低きに流れる水が水車を回すことで発電します。水車は火力発電でいうところのタービンに相当します(英語だと水車のことをhydro turbineといいますし)。で,水車と発電機は軸で結合されており,水車の回転エネルギーが発電機によって電気エネルギーに変換されます。

 上記の「高き」というのがポイントです。水の流れにおける運動エネルギーに変換される前のエネルギー形態は位置エネルギーです(ポテンシャルエネルギーともいいます)。

 すなわち,エネルギーの変換の流れとしては,

  水が持つ位置エネルギー⇒水の運動エネルギー⇒水車の回転エネルギー

  ⇒発電機による電気エネルギー

 ということになります。

 それでは,最初の位置エネルギーは誰が溜めてくれるのでしょう? それは地球がやってくれるのです(太陽の力を借りて)。ただし,後で説明する揚水発電所は違いますが。しかし,多くの水力発電では,位置エネルギーを溜めてくれるのは地球だお言っていいでしょう。発電で使われた水が下流に流れ,最後は海に流れ込み,太陽の光で温められて蒸発し,雲を作って雨になり,上流に戻ってくる――。そういう大いなる循環によって,最初の位置エネルギーが賄われているのです。

 この意味で,水力発電自然エネルギー再生可能エネルギーだといえます。

 で,けっこう良いことづくめに聞こえるかもしれませんが,残念ながら,環境アセスを含めていろいろな条件から建設できる場所が相当限定されるのです。

 

 

水力発電所の種類

  まず,ダムを持つ発電所と持たない発電所があります。

 ダムを持たない発電所は,川の流れをそのまま水車に引き込んで回転力に変換します。これは流れ込み式または自流式と呼ばれます。ダムがないので,水が多い時期(豊水期)はすべての水を利用することができず,水が少ない時期(渇水期)には発電量が少なくなるという欠点があります。一方で,建設コストが比較的抑制できることがメリットですが,流れ込み式の発電所にはもっと重要な役割があります。

 実は,一般の発電所は電気がこないと運転ができないという,自家撞着ともいうべき性質があります。その点,流れ込み式の発電所は外部から電力を得られなくても運転開始できるのです。この特性から,電力会社の管内全域が停電(いわゆるブラックアウト)した場合,復旧のための最初の起点(ブラックスタート)に使用されるのが流れ込み式の水力発電所なのです。

 次にダムを持つ発電所ですが,調整池式,貯水池式,揚水式などがあります。調整池式発電所は,河川の流量が一定でも,発電機の出力をそのときの状況に合わせて変えなければならない水力発電所に適用されます。発電機出力を小さくしなければならないときは,調整池に水を貯え,発電機出力を大きくしければならないときは溜めた水を放出して対応します。

 貯水池式発電所は,季節によって変化する河川の流量に対して,年間通じて一定の出力をするために用いられます。すなわち,大きな貯水池を用いて,豊水期には水をため,渇水期にはそれを放水することによって,出力を一定に保つことができます。

 揚水式については,トピックが多いので,項を別にして説明します。

 

 水力発電所の記事は思ったより長くなりそうです。次回に続きます。

 

 

【電力系統】発電所(2)【火力発電所】

 こんにちは。電気でぶ猫のラルフ0です。

 今回は,日本の電力系統における発電所の中でも,中心的な位置づけにあるといえる,火力発電所について語りたいと思います。

火力発電所

 火力発電所は,字のごとく火を燃やすことでエネルギーを生んでいる発電所です(あたりまえですね(^^;))。

 大きく分類すると,蒸気タービンによるもの,ガスタービンによるもの,蒸気タービンとガスタービンを組み合わせてつかっているものがあります。

蒸気タービンによる発電所

 まず,ボイラがあります。ボイラは燃料を燃やして水蒸気をつくり,タービンにおくります。エネルギーの流れで考えると,燃料のもつ化学エネルギーを熱エネルギーに変化させるものだといえます。燃料としては,石炭,重油(C重油と呼ばれるもの),天然ガス(メタン等)が使われます。

 水蒸気のもととなる水は給水ポンプから供給されます。

 水蒸気がタービンに送られると高圧の水蒸気が一気に膨張してタービンを回転させます。前の記事で説明したように,タービンと発電機は軸で結合されていますから,発電機の回転子も回転し,タービンで生じた回転エネルギーを電気エネルギーに変換しています。

 タービンを通過した水蒸気は,復水器という装置で水に戻されます。そして復水器から給水ポンプに送られます。 

 すなわち,蒸気タービンは

  ボイラー⇒タービン⇒復水器⇒給水ポンプ⇒ボイラー

という閉じた系を構成しています。そして,この系の中で熱力学的サイクルが生じています。蒸気タービンの熱サイクルは,ランキンサイクルと呼ばれるサイクルでよく近似されます。

 なお,蒸気タービンを用いる発電所は汽力発電所とも呼ばれます。

 

 

ガスタービンによる発電所

 ガスタービンは,タービン,圧縮機,燃焼器から構成されます。このうち,圧縮機とタービンは発電機と軸で結合されています。

 圧縮機は大気から空気を取り込み圧縮し,燃焼器に送ります。燃焼器は燃料を燃やすことにより送られた空気を熱し,高温高圧の燃焼ガスをタービンに送ります。タービンでは高温高圧の燃焼ガスが膨張し,熱エネルギーが回転エネルギーに変換されます。使われた燃焼ガスは排ガスとして大気に放出されます。

 ガスタービンのサイクルを近似するのはブレイトンサイクルと呼ばれるものです。

 燃料としては天然ガスが主に使われています。

蒸気タービンとガスタービンの組み合わせによる発電所

 蒸気タービンもガスタービンも,種々の物理駅制約から,その効率の向上には限界があります。そこで,少しでも効率を向上させる方法として,蒸気タービンとガスタービンを組み合わせる方法が考えられました。これはコンバインドサイクルと呼ばれています。

 従来の蒸気タービンの熱効率は40%程度ですが,コンバインドサイクルでは50%を超えることも可能になります。これだけ効率が違うと,1年間の電力量(エネルギー)を考えるとたいへんな差になります。

 コンバインドサイクルにもいろいろ種類があるのですが,ここでは,「廃熱回収方式」について説明します。

 まずガスタービンが運転されると,排ガスを大気にすてていたわけですが,これを捨てないで廃熱回収ボイラに引き込みます。そしてこの排ガスの熱でお湯を沸かし蒸気タービンを運転するのです。

 コンバインドサイクルには一軸形と多軸型があります。一軸形はガスタービン,蒸気タービン,発電機がひとつの軸上に結合されているもの。多軸形は,ガスタービンと発電機,蒸気タービンと発電機の組み合わせに分かれているものです。

 多軸形は複数のガスタービンと一台の蒸気タービンの組み合わせが多く,蒸気タービンが大型であることから,熱効率が一軸形より高くなります。一方,一軸形は蒸気タービンが小型になるため,複数の一軸形を用意することで,部分負荷運転(プラント全体の容量の一部の容量で運電すること,と思ってください)で,高い効率を保つことができます。

火力発電機の回転速度

 火力発電所の蒸気タービン,ガスタービンとも,その特性上高速回転が可能です。そのため,発電機の回転子における磁極のペア数を1として,50Hz系統(※1)では1秒間に50回転,1分間に3000回転,60Hz系統(※1)では1秒間に60回転,1分間に3600回転という高速回転で運転しています。

 この高速回転の遠心力に耐えるため,火力発電機の回転子は円筒形というなめらかで細長い円柱状の形状をとっています。

※1:東日本:北海道電力東北電力東京電力の周波数は50Hz,西日本:中部電力関西電力北陸電力中国電力四国電力九州電力沖縄電力の周波数は60Hzです。なお,新潟県東北電力の管轄なのですが,佐渡島だけは60Hzです。